『悪いヤツほど出世する』を読んで —アンチリーダーシップ論―
教訓 創り出したい未来と現実の差は行動のエネルギー源
こんにちは、Viviです。
こんな本、読みました。
ちまたにはびこるリーダーシップ研修やリーダーシップ研修に対して、その実態と現実社会の中での効果に対して疑問を投げかける内容です。
1.リーダーシップ教育の失敗とは
冒頭からリーダーシップ教育産業の盛り上がりとその教育内容とリーダーシップが求められる職場での管理職の置かれている現実とのギャップが書かれています。
著者はアメリカのビジネススクール教授なので、アメリカでの調査が用いられています。
部下の上司に対する満足度などいくつかの調査結果を引き合いに出していますが、どの調査も職場という現実おいてマネージャーに対する評価の低さを表しています。
2.失敗と対策について
調査によるとリーダーシップ教育に投入されている金額は年々増えていて、高等教育におけるリーダーシップ教育コースも人気です。
それにも関わらず、現場ではリーダーに対する不満が増えいてる。これは一体なぜなんでしょうか。
組織の利益とリーダー個人の利益が一致していない
リーダーシップ教育では組織の利益はリーダー個人の利益と一致する前提で話が進むのですが、実はそうではない、というのが1つの理由にあげられています。
そして、
教育内容が現場で実を結んでいるのか調査がなされていない
本来なら教育した内容がどう現場で生かされているのか、調査して成果が出ていない部分をリーダーシップ教育にフィードバックする、というシステムがないことも理由としてあがっています。
当然ながらその対策としては、両者の失敗をうまく生かして、
組織とリーダー個人の利益が一致していないことを認識し、
リーダーシップを科学する
(現場の実態で得られるフィードバックを教育に反映させる)、
ということが必要です。
3.リーダーシップ教育の中でのリーダー像の事実の乖離
続く章では、リーダーシップ教育で語られるリーダー像と事実はどうなのか?について、いくつかのケースを上げて、いかにそのリーダー像が神話化されているか、について書かれています。
今まで書籍化されたり、伝説化されているネルソンマンデラ氏やキング牧師などの神話化されていない生身としての人間の弱い部分を引き合いに出しながら、リーダーも人間であり、多くの人同様、自分自身を過大評価したり、過去のできごとについて自分に都合よく捉えるという事実が述べられています。
さらに、今、リーダーの素質として世の中で取りあげられいている
・サーバントリーダーシップ(謙虚なリーダーシップ)
・オーセンティックリーダーシップ(自分らしいリーダーシップ)
についてもその実態と負の局面をとおして疑問を投げかけています。
まず、サーバントリーダーシップ(謙虚なリーダーシップ)があると、その謙虚なリーダーは部下を信頼し、仕事を任せれば部下は俄然ヤル気を出して仕事に取り組む、という考えですが、実際は出世の階段を上がっていく途中のリーダーは謙虚さではなく、自己中心主義的な方が先見的であり存在感のあるリーダーとして認識されやすい、という事実がある、ということです。
また、オーセンティックリーダーシップ(自分らしいリーダーシップ)についても、自分らしさを前面に出したリーダーが部下や組織にとって受け入れられるか?という現実の視点から見ています。
実は、人はリーダーに対して、たとえそのリーダーがどんな気分だったとしても、つねにエネルギーを発散し、他人のことに気を配り、大丈夫、きっとうまくいく、という安心感を与えることを求めている、と書いています。
ということは、リーダーのその人らしさ、というのは求められていないのでは?という結論になっているのです。
リーダーとしての役割を果たすためには「自分らしさ」の代わりに、組織が組織としてよりよく機能するための行動を取らなくてはいけない、ということが事実であり、置かれた環境で成功するためにはどうしたらいいかを学び、はたまた成功するためにより良い環境に移るにはどうしたらいいか、を考えてつねに成長するのなら「真の自分」というものも変わっていく、ということになりますね。
4.リーダーに誠実、信頼、思いやりは必要か
まず、誠実さについて「嘘をつく」という基準で考えています。
その基準が果たしていいのか?は別として事実を誇張表現したり、できていないことをできている、というようなことはリーダーに限らず多くの人にとって心当たりがあることです。
さらにリーダーとして、自分の組織の持っているリソースを外部に魅力的に見せて注目してもらう、ということは役割の一つであったりもするので、その結果、嘘は時に歓迎されることすらある、と書いています。
次は信頼です。
リーダーシップ教育では「社会的・経済的組織の中では信頼は重要」と言われています。
にもかかわらず、周囲からの信頼を裏切って法廷に立つ羽目になったリーダーの名前をあげて、その後、そんなに社会的制裁を受けていないことの実例を使って、人間そのもののが持つ
・楽観主義バイアス
・単純接触効果
の特性を使って説明しています。
そして、締めくくりは
「人間は大体において自己利益を追求する生き物だ」
という普遍的真実を私たちに突き付けているのです。
最後の思いやりですが、ここでもリーダーと言うよりも人間として持っている特徴を用いて、リーダーが部下に対する思いやりを持つことの難しさが述べられています。
その特性とは、
・自分と似た人を助ける
・自分の体面や優越性を守ろうとする気持ちが強い
・問題が起きてもその責任が自分の外にあると判断する
です。
このことから、部下という他人よりも自分に対しての思いやりがまさってしまう、という事実を述べています。
5.じゃあ、どう考えるか?
対策が書かれている章のタイトルはずばり
「自分の身は自分で守れ」
「リーダー神話を捨てて、真実に耐える」となっています。
そして、最後は組織の現実と向き合う6つのヒント
として
- 「こうあるべきだ」(規範)と「こうである」(事実)を混同しない
- 他人の言葉ではなく行動をみる
- ときには悪いこともしなければならない、と知る
- 普遍的なアドバイスを求めない
- 「白か黒か」で考えない
- 許せども忘れず
と書いてあります。
そして、最後に
じゃあ、「リーダー自身はどう考えるか」について大事なメッセージが書いてありました。
それは
リーダーシップ神話を振りまき、人々をいい気分にさせるだけではうまく行かないことは、はっきりとしている。
真実に向き合い、現実にねざすべく努力をし、そして自分が何をしたいのか、それはなぜかを見きわめ、そこに向かってがんばって続けること。
当たり前にできそうでできないことですが、何ともシンプル。
自分の毀誉褒貶を手放して、うまく行かないという現実を直視し、愚直に少しずつゴールに近づく、ということですね。
気持ちが楽になりました。